装画「そんな言葉があることを忘れていた」

せきしろ著『そんな言葉があることを忘れていた』(左右社)の装画へ2020年の作品「眩む丘」を提供しました。
装幀は櫻井久さんです。

『カキフライが無いなら来なかった』『まさかジープで来るとは』など、又吉直樹とともに自由律俳句作家として活躍するせきしろ・初の単独句集。郷愁の極北をゆく全320句。


枠の中で生きられなかった俳人が定型ではなく自由律を志すことに必然性を感じるが、せきしろさんも平穏無事に社会生活を送れる感性ではない。やはり、せきしろさんも自由律を選んだのではなく、魂の形がすでに自由律だったのだろう。――又吉直樹(解説より)

【収録句より】

走る春の小学生に追い抜かれる

シンクで水が跳ねて響く内見

免許証コピーしただけで熱いサドル

盆踊りをやっている気配がすごい

風やんで夏がもうない

お湯が沸いて憂鬱が中断

漫画のスカジャンを着た人が怒っている

あなたの牡蠣は小さいから二個と仕切る人がいる

この静けさは雪だろうと窓へ

死が約束を破る

消える前に一句

誰もいなくなったとしても故郷

そんな言葉があることを忘れていた 左右社